死ぬの生きるのと思い詰めて飼うことになった犬だが、
12月10日に生まれたパピヨンの仔犬を生後2か月足らずで我が家に迎えたのは、2006年1月の終わり頃だった。息子は小学1年生。
小さくてふわふわして、まだ「ワン」と吠えることさえなく
「きゅんきゅん」ないて甘えてくる様子は可愛らしくて、息子も息子の友達も皆夢中になった。
仔犬が生活環境に慣れるまではサークルの中で飼って、刺激を与えすぎないように静かに見守ってください、とペットショップのオーナーさんからは指導があった。
まだ予防接種も打ち終わっておらず、お散歩デビューもできないため、ただ仔犬の様子を飽きることなく眺めた。フードを食べさせたり水をあげたり、仔犬が何をしても何もしなくても、可愛い、可愛いと穴があくほど見つめていた。
暫くして家での生活に慣れた頃、サークルから出て遊ぶ機会が徐々に増えた。息子たちは廊下でボールを転がしたり、まだ自力ではソファにのぼれない犬の姿を微笑ましく見守った。
予防接種も済んでお散歩に連れていけるようになった春頃には、息子たちも犬が家にいることに慣れていった。
予想はしていたけれど、散歩に連れ出すのは自分たちの遊びの途中で気が向いたときだけで
専ら私が公園まで散歩に連れていった。
公園までの道は20分ほど歩く。小学生の通学路で、夕方の散歩では下校時の子供たちに「可愛い、可愛い、触ってもいいですかー」と声をかけられることが私にとっても楽しみになった。公園の向かいには保育園があって、園の子供たちとも触れ合うことが常だった。犬は愛嬌があって、たくさんの子供たちに囲まれてもにこにこと大人しく触られ、誰からも好かれた。
よちよち歩きの赤ちゃんが犬を触ろうと手を伸ばしてくると
犬は尋ねるように私の顔を見る。「こんなに小さな赤ちゃんだけど大丈夫?」と聞いてくる。「優しく、優しくね」と微笑んでやる。赤ちゃんを驚かせることなく上手にご挨拶することができると、「これで良いのでしょう?」とまた得意気に私を見てくる。「いいこだね、凄いね」と褒めてやると満足そうにする。
そんなふうに心が通う体験を私たちはできるようになっていった。
不思議なことに、今日は公園のいつものベンチでゆっくり座って休んでいこう、木陰で風が気持ちよさそうだと思うだけで、犬はさっさとベンチに向かって歩いた。
今日は芝生の広場でおやつをあげて「マテ、コイ」の訓練をしようと思うと
芝生に向かって歩き出した。声をかけなくてもそう思うとなんとなく伝わるということは度々あって、いつの間にか伝わることが当たり前になった。
犬のことを分かってあげたいと思ってきたが、犬の方でもそう思ってくれていたのだろうと今更ながら気づく。
あと3か月で17歳になる。年相応で目はぼんやりとしか見えていないようだし後ろ足は力がないようにも感じる。だからいつもの公園まではもう行かなくなった。
けれど朝・夕2回の散歩は欠かさない。
あとどのくらい一緒に暮らせるかと思うことも増えてきた。悔いのないように毎日大好きだと伝えよう。