雨の降る休日、野球を観に出かける息子を最寄りの駅まで送った。
激しい雷雨になりそうな雲行きだったので。
「あなたは、今日は何をするの?」ふいに息子にそう聞かれ私はうろたえた。
家事をすること以外特に何の予定もなかった。
母親として、社会人として、只一人の大人としても情けなく、自分を恥じた。
その時私は空っぽだった。
悲しいことも、辛いことも、大きな不安もない代わりに、夢も喜びも希望も何もないのだった。
人生で成すべきことはもう全てやりきった、そんなふうに感じていた。
この虚無感を埋められるのは「書くこと」だけだと思った。
ずっと子供のころから好きだった「本を読むことと文章を書くこと」
でも、今までちゃんと書くことに向き合ったことはなかった。
何か書いてみたい。
これまでの自分の経験や体験。その時々に考えたこと、感じたこと、得た知識や気づき、それから日々思うことなどを書いてみればいい。
私は元々自分のことをあれこれと誰かに話すことが苦手だった。秘密主義ではないが話を聞く方が得意だしその方が気が楽だからだ。
それなのに今まで誰にも話したことがないエピソードや、決して知られたくないこと迄もこれから書いていこうと思っている。
自分でも不思議だが「書く」ことで辛かった感情や記憶を昇華させていける気がする。
それは全部現実に起こり乗り越えてきたこと。
そして今まさにかつての私と同じような体験の渦中にいる人たちの一助となればとても嬉しい。
現在55歳
1997年30歳で結婚。34歳で夫と死別。当時3歳だった息子をずっと一人で育ててきた。
息子は現在24歳、社会人となった。
夫が亡くなったその日、悲しみにくれる間もなく私は決意する。
「この子を必ず一人前の大人にして社会に送り出す。その時まで私は絶対病気をしない、一日たりとも寝込みもしない。一人で育てきる」
そう心に誓った。
3歳の息子が社会に出るまでのおよそ20年。
これからの長い長い年月を思うと、とてつもない不安がわいてきた。
それでも必ず成し遂げるというあの日の強い決意がどんな時も私を支え、励みとなり、お陰様で私は健康で息子は無事に大学を卒業し希望の会社に就職をした。
そんな私の子育てについて。夫のこと。仕事。趣味のバレエ。犬を飼うということ。夫の死を機に深く学んだスピリチュアルについて。
決して平坦ではなかった様々な体験をここに記していこうと思う。
その体験が強烈であればあるほど、当時の出来事やその時々の感情が鮮明に蘇る。
けれど私はもう悲しくないし、辛くない、それらを全部「喜び」に変えてきたのだから。